備忘録: 善意の政策の暴力性
- 百合田真樹人
- 2020年7月24日
- 読了時間: 2分
大前提として売買春には反対です。
それでも売買春を非合法化する法案の多くが,あまりにも深刻な問題を抱えたままに立法化される現状は,売春よりも残酷な問題をうんでいると思う。
パリ郊外のブローニュの森は市民の憩いの場。一方で公然と売買春があることでも有名。最初に聞いた時には耳を疑った。ただ外出制限下で日課にしていた森の散歩の途中,避妊具がやたらと落ちてる場所がそこ彼処にあった。そして外出制限が終わった後の森のそういう場所に売春婦の姿をみるようになった。
特段に治安が悪いこともない。不思議なことに,ジョギングや散歩,さらには乗馬をする人が普通にそばを通る。本当にただの森の一角。獣道みたいな隘路のそばに,布で周りを囲っただけの場所で売買春が行われている。ちょっとしたカルチャーショック。
フランスは2016年に「買春」を違法化。再犯者には売春婦が置かれた状況について学ぶ講座を受講する義務もあるらしい。「売春」の違法化よりも一歩進んだ施策と言える。ただ,やはり妥協策にとどまる…。
売買春を取り締まる法律の多くが,風俗産業従事者の保護や生計の保証について消極的に過ぎる傾向がある。有権者の多くが売買春の禁止には肯定的でも,その従事者を「卑賤な存在」と認識し,その保護と救済に公金を支出することに否定的。政治家はその辺に敏感だから,立法措置で切り捨てられ,さらに「見えない存在」になる人に焦点をあてることはない。たとえ「見えない存在」に光があてられても,その多くは「この人だったら見えてもいいな」という対象に限られる。
ブローニュの森でみる売買春は,善意の政策が社会構造の底辺に穴を開け,その底辺でもがく人をその穴からこぼしてしまう暴力性を見せている。
売買春の是非はともかく,売買春が合法である時には売春行為についての衛生・労務・財務管理ができる。しかし,単純に売買春を違法化することで,水道もない布で囲っただけの森の中で,警察から隠れ,行政からの保護の対象にもされず,売春婦を利用するPimpの保護下で搾取される人身売買に近い”労働”に従事させることになる。ブローニュで驚くのが売買春と日常との距離のあまりの近さ。残酷すぎるなと思う。哀しいし腹立たしい。
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